三弦国際シンポジウム(学術報告篇)

ところで、私は初めて音楽系の学術討論会に参加しましたが、法学(邦楽じゃないよ)の研究会と違いますね。

まず、思ったことが、研究者であるよりも演奏家に偏っているタイプの先生は、やはり、喋るのがお得意ではない。
弾かせるとあんなに楽器が饒舌に喋るのに、自分の口ではあまり表現できない人もいるんですね…意外だなぁ。
ここらへんが、演劇、演出を専門としている先生とはずいぶん違う(演劇演出系の方の中には、若いころ、自分自身が役者として舞台に立っていたとかいうタイプは喋る喋る…)

そして、ある程度、講演(公演も含む)が得意な大学教授兼演奏家(どっちを前に書くべきだろう)の先生でも、音楽という言葉にしづらいものを対象としている以上、やっぱり伝えにくいことがあるのでしょうね。

談先生が、突然、「言うより、やった方が早いわ」とすっくと立ち上がり、檀の下に降りてきて学生から三弦を受け取り、三弦抱えながら喋り始めました。
「こうすると、北方系の雰囲気は出るでしょう?」
「こうするのと、こうするのでは、スリの効果が違うから、感情表現も違ってくるでしょう?」
などと、あれこれ、弾いてくださいました。

ううむ、一つ一つは、簡単な、あるいはちょっと複雑な単なる演奏技法にすぎないのに、談先生が弾くと、ただの「技」ではなく「表現」になってる。
さすが、先生…(って当たり前ですね、何年も弾いて、これで生計立てているんだから…)

最近、ふと、思うのだけど、やはり、初心者はどうしても「技」の習得に気を取られていて、ややもすると何のためにその技を身につけようとしているのか忘れちゃっているような気がする。

目的と手段がごっちゃになっているですよね。

その技法が出来るようになるのは当然だけど、何のために身につけているのやら。
何かを「表現」できず、誰も感動してくれなかったら、意味ないじゃん~
もっとも、XXが速くできるということ自体が「おお~すげ~」となる見せ場もありかもしれないけど、そんなん…若いうちしかできないし、ある程度運動神経ある人なら、誰がやっても同じでしょ(笑)

わはは、年寄りの言い訳かもしれないけど…
その前に、十六分音符のトレモロを180の速度で、3分弾き続けてみろって>自分

三弦国際シンポジウム(演奏会篇2)


シンポジウムのトリを飾る2日目の夜の演奏会の主役は、当然、モンゴル族三弦の演奏家さんたちです。
漢字をそのまま書いても、モンゴル語発音の当て字だし、ますますどういう曲か分からなくなると思ったので、以下、片仮名にした方が分かりやすそうなところはできるだけ片仮名にしてみました。

1、三弦合奏
 (1)君主チンギスハン
 (2)歓喜のオルドス

2、三弦弾唱(弾き歌い)
 オルドス民謡

3、三弦独奏
 烏那欽

4、三弦三重奏
 オルドスの雲

5、三弦独奏
 (1)モンゴル国の民謡
 (2)三弦コンチェルト第三楽章

6、三弦四重奏
 阿斯爾

“阿斯爾”(中国語の当て字です。だいたいの発音は、asier)とは、モンゴル語の”阿斯如温得爾”(中国語の当て字です)の口語省略形です。
意味は、「極めて高いこと」。
元代の「皇室白馬群之歌」が元になっているモンゴル族の古典曲です。

7、内モンゴル東部民間説書(弾き語り)
 八音

四胡という擦弦楽器(二胡みたいなものだけど、弦は四本)と三弦の伴奏で、面白おかしく語ってくれましたので、会場から歓声があがりました。
なんでも、演奏してくださったおじさま方は、大工さん出身なので、楽器は自作だとか…
すごいよね。私も三味線ぐらい、自分で作れないとね。

8、呼麦弾唱
 祭祀頌

9、三弦独奏
 森徳爾姑娘

10、長調と三弦
 四季

「長調」はモンゴルの民謡の形式で、旋律が長く、音階の変化が少なく、高らかで抑揚のあるリズムが特徴らしい。
無形文化財だそうです。

11、三弦小合奏
 二人台組曲

12、三弦陶布秀弾唱
薩布爾登
 

【感想】
歌がいっぱいで、楽しかった~
モンゴル三弦は、指でかきならすというのではなく、棒を使用します。
人差し指と中指の間に棒を挟み、これをピックにします。
まぁ、三味線の撥が薬指と小指の間に挟むのとちょっと似てますかね。

漢民族大三弦は、私が思うに、とにかく伴奏楽器ではなく独奏楽器なんだということを強調して西洋音楽に追いつけ(?)みたいな感じで、大学教育に取り込まれた感があるので、基本的に音大や音楽科の三弦専攻で弾くような曲には、歌が全くないんですよね。
弾き語り演出の前座で弾いた器楽曲とか、最近作られた現代曲か、琵琶や筝から移植された純粋器楽曲ばかり。
本来のルーツの民間伝承芸能の弾き語りができる学生なんて、音楽科にはいないです(笑)

もともとは、伴奏楽器じゃない、三弦って?
「伴奏楽器」と口にすると、結構、ムッとする人多いけど、伴奏楽器は独奏楽器より劣るっていうイメージなのかしらん?

それから、結構、大人数のユニゾン演奏が多かったかも。
14人とかで合奏するの。
何だか、津軽三味線のXX流の大合奏を思い出しちゃった。

よく二胡と合奏したいと中国人に言うと、音楽専門教育を受けた人ほど「どっちも、旋律楽器で個性的だから、合わないんじゃないか」と言うけれど、それは西洋音楽の合奏に慣れているからそう思うだけなんだよね。
モンゴルの人は、擦弦楽器と三弦の伴奏で普通に歌ってるよ~
いいじゃん、日本人が二胡と三味線で歌ったってさ、と思うのでありました。
(そういえば、二胡と三味線の合奏は聴いたことあるけど、さらに唄っているのは聴いたことないなぁ)

三弦国際シンポジウム(演奏会篇1)

11月12日 中央音楽学院 琴房楼演奏庁

一夜目は漢民族三弦演奏会。

1、将軍令

これは、「弦索十三套」という明清代に流行した13の器楽曲の一つです。胡琴、琵琶、筝などと共に合奏されるものですが、今回は胡琴と三弦で。
三弦:程珊 胡琴:薛克

13曲すべて室内楽でお聴きになりたい方は、中央音大の先生方がCDを出しておられますので、そちらをどうぞ。
「清代古譜面 弦索備考」古筝:林玲 琵琶:張強 三弦:談龍建 胡琴:薛克 2009 Polo Arts Entertainment Co.,Ltd

日本だと、若い子受けはしない曲だろうか…どうだろう???
西洋人からしたら、同じようなメロディを違う楽器で演奏して何が楽しいのかと思うかもしれないけど、和声だけが音楽じゃないぞ~
ハモることだけが美しいなんて誰が決めた?

2、反二黄慢板与小開門

タイトル見れば分かるように、京劇音楽です。
小三弦:王玉 打楽器:謝天

ちなみに小三弦は京劇伴奏に使われますが、津軽三味線と棹の長さがほぼ同じなので、津軽やってる人は弾きやすいかも。でも棹は津軽よりずっと細いです。
王玉さんのプロフィールを見ると、中国戯曲学院の附属中・高のご出身のようで、その後、中央音大へと進まれたらしい。
そもそも京劇伴奏楽器の専門教育受けてきた人なんですね。
おや…プロフィールに、日本の三味線大師、本篠秀太郎先生に習ったことがあるとも書かれていますね。
どおりで、こういうのがお得意な筈だ。

3、風雨鉄馬
三弦:張柳萌

白鳳岩さんという著名な民間芸人の先生が20世紀に作曲した独奏曲です。鉄馬というのは、古代建築物の軒下に掛けられた鈴みたいなものですかね…これが鳴る様子をモチーフにしています。白先生は琵琶の名手でもありますから、琵琶の演奏技法がとりいれられています。

私がこれを初めて聴いたのは、大御所、蕭剣声先生の演奏(動画)です。
従いまして、今回の演奏は、談龍建先生の演奏楽譜をご使用になっているので、若干、受ける感じが違います。

ちなみに、大学で三弦専攻している人の系列は大きく分けて、中央音大と中国音大にわけられます。普通はずっと同じ系列の先生に師事することになりますが(ぶっちゃけ、系列違いの先生の大学や大学院を受けても受からない)、訳あって、両方の系列の先生に師事出来る人もいます。
紅楼夢の登場人物で、私が勝手に例えるなら、中央音大が薛宝釵で中国音大が林黛玉が三弦弾いてるような感じか?
どっちもヒロインだし、人の好みも好き好きってことで。

4、平沙落雁
三弦:高芸真 蕭:李楽

言わずと知れた古琴の名曲です。
蕭との合奏ですが、蕭と三弦でいけるということは、三味線と尺八でもまんざらではないってことですよね。
いつか、挑戦してみよう~

5、川江船歌
作曲:池祥生 三弦:張馨元
これは、80年代に作曲コンクールで二等賞を頂いている作品だそうです。
作曲者自身が三弦演奏家なので、さすがに、三弦の魅力を十分に引き出しています。
五本の指をすべて使う輪指という奏法を駆使。
音の粒が、まるで水しぶきのように華やかに散る感じ?

6、説変
三弦:王玉 ピアノ:孫小松

これは、もともと2008年に青年演奏家、庄昉さんのために創作された曲で、2010年には張柳萌さんのコンサートで、コンチェルト用に編曲されています。
どちらも修士卒業記念演奏会のDVDが発売されています。
そして今回は、ピアノとの二重奏にアレンジしなおされています。
正直、前に聴いた時は、さほどいい曲だとも何とも思わなかったのですが、ピアノとやるとお洒落ですね。
ジャズバーにでもいるような感じ。
え?三弦にこういうお洒落な雰囲気似合ったっけ?と思いました。

ところで、演奏中、横揺れ、縦揺れ、上下揺れする人、いろいろいますが、王玉さん…突然前にグラッといくんで、ビックリしました。
別に何かミスったわけじゃないですよ。
彼のテンション上がった時の癖?

7、三弦コンチェルト
三弦:張柳萌
オケ:青年室内楽団
指揮:焦子傲

作曲家の楊勇先生いわく「三弦はフレットがなく、神秘的かつ魅力的な楽器」
確かにそうですよね。
無数の音の可能性があります。
私も、右手で細かい音を叩きながら、左手で棹を上下するの大好き。

この曲は三楽章から構成されております。
二楽章はバイオリン、チェロ、コントラバス等によるピチカートが可愛らしく響きます。
また、第三楽章、ミレドシラ~ミレドシラ~と単純な旋律が繰り返されるのも印象的ですね。

正直、バイオリンやチェロ、コントラバス、オーボエ等と三弦の組み合わせって、XX折衷のケーキのように、合わないとホント微妙ですよね。
でも、上手く合うと変に美味しいんですよね。

抹茶ケーキとか、皆さん全然違和感ないでしょ?
でも、桜ケーキ(しょっぱい)だと微妙。
小倉マーガリントースト(名古屋人は好き)に至っては、面白がる人もいれば、絶対に食べない人もいる(笑)

以上、三弦三昧のコンサート報告でした。
モンゴル族三弦篇へ続く