好い音を求めて幾千里

知人が、三弦の弾き方(手や指の筋肉の使い方)を全く変えました。
音色も変わりました。
どちらの音色が好い悪いの問題ではなく、違うとだけ言っておきましょう。
現にどちらの弾き方にもプロの演奏家がおられます。
その人は、大学に入るまでの5年間弾いてきたやり方を全く変えたわけですから、大変な苦労があったと思います。
普通は身についたものを変えるには、それを身に付けた期間の倍の期間を要すると言われています。
ついでにいうと、今までの先生との間に溝もできてしまいました。
なぜ、その人がスタイルを変えたかについては、私もいろいろ差し支えるので書かないことにします。

ちなみに、私の今の弾き方というのも、実際のところ、厳密に言えば、私の先生と全く同じスタイルの弾き方ではありません。
先生も、私の身体的な限界や、最終的に日本に戻ること(将来、聴衆や学習者になってくれる対象が基本的に日本人であるという現実)を承知なので、自分のスタイルをすべて守らせることは諦めているから、関係が険悪になるということは今のところはないのですが…。

そんな私ですが、三味線の師匠には「あなたの三味線の音は、何か大三弦みたいな変わった音するよね」と言われました。
そして、逆に、私の三弦の音を聴いた兄弟子先生に「なんか、三味線っぽい音しなかった?」と言われたことがあります…中国三弦には日本の三味線のようなサワリ(弦が上駒ではなく棹に触れるときに発生するビィーンという感じのノイズです。日本琵琶だともっと顕著にびょ~~んっていうノイズがつきますよね。)がない筈なのに、それが聴こえたって言うんです。
まぁ、弦のテンションが緩いので、弾き方によっては、そういうことあるでしょうね。
私の三弦の先生にも、何か変な音が入るから棹を見せてみろと言われたことありますが…

大三弦の音ってやつは、大きく「中国の芸人さんの昔ながらの三弦伴奏っぽい音」「中国琵琶っぽい現代的な音」に大別されると思います。
プロはどちらのスタイルにもいます。

じゃあ、あんたの音はどっち派って聞かれると…実は、どっちでもない。
演奏姿を見ていない人に、隣の部屋で誰かが筝を弾いていると、何度か勘違いされたことがあります(汗)。
ちなみに、二胡でピチカートする時も、「日本の筝みたいな音がするよね」と最初に言われました(それは気をつけて直すようにしてます)

確かに、昔から私の周囲では筝の音って身近でした。
近所にお師匠さんがいたり、仲の良いお友達が習いごととしてやっていたりしました。
今の東京の家でも、斜め下の家(家は高台の一番上にある)は生田流の筝のお師匠さんが住んでいて、筝のお稽古の音が聴こえます。
でも、私は、筝は弾けない~

科学的に言えば、弦をはじく時の角度、爪が弦を通過するスピード(爪が弦に触れている時間といってもいいかも)、弦が爪のどこにあたっているのか、弦と爪の材質など、そのすべてが音色には関係してくる筈なので、それが、人と違う、ついでに言うと、何が自分にとって心地よく感じるのかという感覚(これを感性というのだろうか)ってやつも、他の人と違うんでしょうねぇ。

そもそも、「好い音」の基準が私にはわからないんですよ。
もちろん、雑音が入るとか、かするとか、リズムが乱れるとかそういう技術的な話ではなく、純粋な音色の話。
誰が聴いても分かる騒音と楽音の違いではなく、「好い音」っていうのは、乱暴に言えばその国、その業界の人が、長年、心地よいと思ってきた音であって、どの国の人も、どの業界の人もそれが一番いいって思っている音じゃないじゃない?
そんなん、親兄弟が一流の演奏家でもない限り、知ったことじゃないわい。

とりあえず、7月7日に人前で弾かなくてはならないので、それまでは、今のまま弾いて、そのあと、今後のことを考えたいと思います。

型を破るのは型ができていないうちは、絶対にやっちゃいけないことですが、その型が自分には絶対に一生身に付けられないと数々の証拠により推測できる場合、どうしようもないじゃないですか…